個人事業主が人を雇う際に知っておくべきこと【雇用形態・保険・マイナンバーetc】

個人事業主として起業していると、事業拡大に伴って新たに人を雇う必要が出てくることがあります。

 

ここで注意したいのは、人を雇うには給料のことだけを考えていたのでは不十分だということ。

 

どんな雇用形態で募集するのか、実際に雇用するにあたって必要な書類は何か、など知っておかなければならない知識がたくさんあります。

 

この記事では、個人事業者が人を雇う際に最低限知っておかなければならない知識を紹介していきますので、事業運営の参考に読んでみてください。

 

 

人を雇う際に知っておくべきこと

 

雇用形態

まずは、どんな形態で雇うのかを決めていきましょう。

 

雇用形態は大きく3つに分類されます。「正社員」、「契約社員」、「パート/アルバイト」です。

 

これらは「まず人を雇っておいて、慣れてきてから正社員か契約社員か決めよう」というように後回しにはできません。

 

労働基準法という法律では、従業員と労働契約を結ぶ際には「労働条件通知書」というものを作成しなければならないと決められています。

 

この通知書に必ず入れなければならない事項としては以下のようなものがあります。

 

  1. 労働契約の期間に関する事項
  2. 就業の場所、従事すべき業務に関する事項
  3. 始業・就業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、就業時転換に関する事項
  4. 賃金(退職手当、臨時に支払われる賃金、賞与等を除く)の決定、計算及び支払いの方法、賃金締切り及び支払時期並びに昇給に関する事項
  5. 退職に関する事項(解雇の自由を含む)、退職自由及び手続き等の明示
  6. 労働契約期間の定めがある場合の更新の有無及び更新の基準

さらに、パートやアルバイト、契約社員の場合には昇級の有無や賞与の有無など、細かく盛り込まなければなりません。

 

なお、この項目でイメージがしにくいという方は、厚生労働省が労働条件通知書のモデル様式を公開していますので、こちらを確認してみてください。

 

厚生労働省 労働条件通知書のモデル様式

 

雇用形態によって作成する通知書に書かなければならない項目も違うので、必然的に、新たに雇う従業員をどんな雇用形態にするかは事前に決めておかなければならないことになります。

 

ちなみに、通知書を出さない場合は労働条件の明示違反となり、30万円以下の罰金という罰則が規定されていますので、絶対に交付するようにしてください。

 

必要な書類の作成

労働条件通知書の他に必要なものとして「雇用契約書」を作成します。

 

これは、作成していなかったからといって罰則があるようなものではないのですが、従業員との雇用条件を巡るトラブルを未然に防ぐためには、絶対に取り交わしておくべきものです。

 

通知書が「知らせること」を目的とする書面なのに対し、契約書はお互いに書かれている契約条件を守る権利と義務を負う書面です。

 

裁判など民事上のトラブル解決にあたっては最も強い効力を持つものなので、慎重に作成するようにしてください。

 

インターネット上でも契約書のテンプレートは探すことができますが、詳しくない方は弁護士の方に相談しておいた方が無難です。

 

頼れる弁護士がいない場合は、このタイミングで顧問弁護士を見つけておきましょう。

 

事業が拡大するほどトラブルの可能性は高まりますし、それに対する自己防衛手段として顧問弁護士を確保しておくことは、リスクを最小限に止めることにも繋がります。

 

書類提出場所

労働条件通知書や雇用契約書はあくまでも雇い主と新たに雇用する従業員との間で交わされるものですので、これを別のところに提出しなければならないという規定はありません。

 

きちんと社内に保管しておきましょう。

 

これらとは別に作成しなければならない書類として、「法定三帳簿」がありますが、これらについては後述します。

 

 

雇用形態の違いまとめ

雇用形態を決める前に、まずそれぞれの形態によって何が違うのかを理解しておきましょう。

 

正社員

法律的な定義があるわけではないのですが、正社員は一般的に「雇用期間の定めのない」従業員のことを指します。

 

期間の定めがないということは、何か事情がない限りは雇用し続けられるということで、定年まで働くこと(=終身雇用)も可能です。

 

また、非正規社員(契約社員やパート/アルバイト)と比較して給与面で厚遇されていることが多く、さらに特別手当としていわゆるボーナスをもらうこともできます。

 

契約社員

契約社員とはその名が示す通り、労働期間が契約によって決められている社員のことを言います。

 

期間はそれぞれの契約によって取り決めればよく、半年や1年といった期間が一般的です。

 

契約社員は給与制ではなく年棒制の事が多く、退職の際にも特段の取り決めがない限り退職金は出ません。

 

労働基準法では、5年以上同じ会社で勤務すると「無期雇用(=正社員)」となる権利が与えられ、本人の申し出があれば定年までの雇用を保証する必要があります。

 

パート/アルバイト

パートとは「パートタイマー」のことを指し、法律上は「短時間労働者」と呼ばれます。

 

実は契約社員と比べて労働時間以外に明確な線引きがあるわけではないのですが、より短期間にシフト制などで働くことから、こう呼ばれています。

 

アルバイトについても同様です。

 

年棒制で働くことの多い契約社員と比べ、パートタイマーやアルバイトは時給制・日給制で働く事がほとんどです。

 

人を採用したら、雇用契約書を締結しよう

前述した通り、まず人を採用することを決めたらしなければならないことは、労働条件通知書を作り、雇用契約書を締結することです。

 

通知書は法律上の義務ですし、契約書は罰則こそないものの後のトラブルを未然に防ぐために必要な書類です。

 

なお、雇用契約書の中に労働条件通知書の必要事項を織り込むことで、それぞれ別に作成するのではなく、雇用契約書のみで済ませるという方法もあります。

 

ただし、契約書は通知書と違って「お互いの同意」があって初めて効力を発生するものです。

 

本来契約書に書く必要のない条項も盛り込まなければならなくなるという点は、雇用主にとってデメリットとなることもありますので注意してください。

 

 

人を採用したら、作成する必要がある法定三帳簿

新たに従業員を雇う際には、上で紹介した労働条件通知書や雇用契約書の他にも作成する必要のある書類があります。

 

「労働者名簿」、「賃金台帳」、「出勤簿」の3つで、これらはまとめて「法定三帳簿」と呼ばれています。

 

労働者名簿は、読んで字のごとく、雇用者をまとめた帳簿です。

 

氏名の他に、以下の項目を記載する必要があります。

 

  1. 性別
  2. 住所
  3. 従事する業務の種類
  4. 雇入れ年月日
  5. 退職の年月日及びその事由(退職の事由が解雇の場合、その理由)
  6. 死亡の年月日

 

賃金台帳は、従業員に支払った給与や賞与、各種手当、労働時間等をまとめたもので、以下の項目を記載する必要があります。

 

  1. 氏名
  2. 性別
  3. 賃金計算期間
  4. 労働日数
  5. 労働時間数
  6. 時間外労働、休日労働、深夜労働をした際はその時間数
  7. 基本給、手当その他賃金
  8. 賃金控除の額と内容

 

出勤簿は、多くの会社でタイムカードとして管理されているものです。

 

始業時刻と終業時刻を確認できる書類として必要となります。

 

以上の法定三帳簿は、作成から3年間の保存が義務付けられています。

 

 

人を採用したら必要になる保険まとめ

 

労働保険

正社員に限らず、契約社員やパート/アルバイトでも、人を雇う際は労働保険に加入させる義務があります。

 

労働保険とは「労働者災害補償保険」と「雇用保険」をまとめて指す言葉で、これらいずれも加入が義務付けられています。

 

労災保険

労災保険とは、従事している業務に伴う災害等で雇用者が負傷した際に、所定の保険が支払われる制度で、全ての雇用者が対象となります。

 

労災保険の種類としては、「療養給付」、「休業給付」、「障害給付」、「遺族給付」、「総裁給付」、「傷病年金」、「介護給付」、「二次健康診断給付」があります。

 

作成しなければならない資料は、以下の4つ。

 

  1. 保険関係成立届
  2. 概算保険料申告書及び納付書
  3. 雇用保険適用事業所設置届
  4. 雇用保険被保険者資格取得届

 

提出する場所は、所管の公共職業安定所。公共職業安定所とは、いわゆるハローワークのことです。

 

雇用保険

雇用保険とは、失業者や教育訓練を受ける方などを対象として、失業給付金が支給される制度。

 

これにより、失業後、次に就職するまでの活動ができるようにしています。

 

こちらも、正社員や契約社員、パート/アルバイトを問わず以下の条件を満たす場合、雇用主は雇用者を加入させる必要があります。

 

  1. 1週間の所定労働時間が20時間以上である
  2. 雇用見込み日数が31日以上である

 

作成しなければならない書類は、労災保険で必要となるものと同様で、以下の4つ。

 

  1. 保険関係成立届
  2. 概算保険料申告書及び納付書
  3. 雇用保険適用事業所設置届
  4. 雇用保険被保険者資格取得届

提出場所はハローワークです。

 

雇用保険と同時に手続きをすることになりますので、別途作成・提出する必要はありません。

 

社会保険

社会保険とは、雇用者が直面する病気や怪我などの際に保険給付を受けることのできる制度で、内容は大きく「健康保険」と「厚生年金」に分類されます。

 

健康保険

病気や怪我などの際、その医療費等の一部を負担してもらえる制度が健康保険です。

 

フリーランスやひとりで会社を運営している場合は国民健康保険を利用することができ、社会保険への加入は任意です。

 

一方、従業員が5人以上で、以下の非適用業種ではない場合は社会保険に加入する義務があります。

 

社会保険の非適用業種
  1. 第一次産業
  2. サービス業
  3. 法務専門サービス業
  4. 宗教業

これらの業種以外の場合、従業員が5人以上となった時点から5日以内に、所管の年金事務所に下記書類を提出し、健康保険の適用を受けなければなりません。

 

  1. 健康保険・厚生年金保険 新規適用届
  2. 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
  3. 被扶養者(異動)届け ※被保険者に扶養者がいる場合

 

厚生年金

病気や怪我などの際、その医療費等の一部を負担してもらえる制度が健康保険です。

 

健康保険同様、フリーランスやひとりで会社を運営している場合は国民年金を利用することができ、社会保険への加入は任意ですが、適用業種で従業員が5人以上の場合は厚生年金に加入しなければなりません。

 

提出する書類、場所は健康保険と同様で、書類自体も同一のものなので別途作成する必要はありません。 

 

人を採用したら必要になる源泉徴収とは?

これまで紹介してきた労働保険や社会保険の書類手続きの他にも、忘れてはならない手続きとして、税務署への申請があります。

 

個人事業主でも、雇用者に給料を支払う場合は「源泉徴収義務者」となります。

 

源泉徴収とは、雇用者が支払うべき所得税などの税金を、あらかじめ給与等から天引きして国に納付する制度です。

 

手続きとしては、まず「給与支払事務所等の解説届出書」を、給与を支払うことになったタイミングから1ヶ月以内に税務署に提出します。

 

さらに、法廷帳簿とは別に「源泉徴収簿」を作成しなければなりません。

 

源泉徴収簿については国税庁が雛形を公開していますので、参考にしてみてください。

 

国税庁 源泉徴収簿

 

さらに、新たに雇った従業員には、その年の最初の給与を支給する前日までに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出してもらいます。

 

この書類によって従業員の扶養状況を判断し、規定の源泉徴収税額表を使って源泉徴収額を決めます。

 

税額表は国税庁のホームページに公開されています(http://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/01.htm#a-03)。

 

従業員から徴収した源泉徴収額は、翌月10日までに税務署に納付しなければなりません。

 

徴収高計算書に必要事項を入力し、金融機関から納付をすれば源泉徴収は完了です。

 

 

人を雇用している際に使える助成金はある?

雇用を生み、多くの人が働ける環境を作るということは、個人だけではなく自治体や国にもメリットのあること。

 

そこで、厚生労働省では従業員を新たに雇い入れる場合、一定の条件を満たせば助成金を交付することにしています。

 

例えば65歳以上の高齢者をハローワーク等の紹介により、1週間の所定労働時間が20時間以上の労働者として雇い入れる場合(かつ1年以上の雇用が確実な場合)、事業主には「高年齢者雇用開発特別奨励金」として、40〜70万円が支給されます。

 

この他にも、障がい者を初めて雇い入れる場合や、安定終業を希望する未経験者を試行的に雇い入れる場合、自ら起業して中高年齢者を雇い入れる場合などに適用される助成金が用意されています。

 

注意したいのは、これら助成金は申請主義なので、自分から申請しなければ受け取れないということ。

 

国の予算案に応じ、タイミングによって助成金制度の内容も違うので、新たに人を雇うさいは厚生労働省のホームページを確認するようにしましょう。

 

厚生労働省 事業種の方のための雇用関係助成金

 

合わせて、県や市でも助成金制度を用意していることがありますので、各自治体のホームページをチェックするようにしてください。

 

まとめ

サラリーマンをしていると、経理や総務経験者以外は気にしないものですが、人をひとり雇うには複雑な手続きをこなさなければなりません。

 

いずれも法律で決められているものですので、「知らなかった」では済まされず、違法行為として罰せられる可能性もあります。

 

個人事業主の方が新たに従業員を雇う際は、本記事を参考に違法行為とならないよう、しっかりと手続きを済ませるようにしてください。